推進工事に影響する地下埋設物
都市化が進んだ地域では、重要ライフラインのほとんどが地下に埋設されています。近年では都市部に限らず、景観・防災の観点から無電柱化が進んでいます。地下にあるこれらのライフラインは「早いもの勝ち」で敷設されたため、現在では、網の目のように密集した状況になっています。こうした背景から、新たに敷設するライフラインなどは、より深く、また他の埋設物に近接した位置に敷設せざるを得なくなってきています。敷設方法としては、シールド工法や推進工法が多用されています。
シールド工法や推進工法は、施工中の目視による前方確認ができないことから、既設の埋設物や支持杭、開削工事等で打設され残置されたH型鋼やシートパイルなどに接触してしまうなど、施工中に多くのトラブルが発生しています。おそらくシールド工事や推進工事に携わったほとんどの方が「困った!」という経験がおありだと思います。
日本物理探鑛では、こういった地下に埋設されている構造物のほとんどに鉄が使用されていることに着目し、長年にわたり不発弾探査で培った技術を元に、この「困った!」に答えるための技術開発を進め、昭和58年より地下埋設物を対象とした「杭の根入れ深度調査」「埋設管等位置調査」を実施してきました。
鉄または鉄を含んだ構造物は以下に示すとおり、地磁気により磁化し、磁極を持ちます。この磁極を捉え、解析することにより高精度に構造物の位置を求めることができます。条件がよければ±200mmの精度で探査が可能です(良い条件とは、探査対象の近傍で他の磁気的影響を受けない記録が得られる場合や、複数の探査孔を設けることができる場合などです)。
他の磁気的影響が強い場合や、非鉄埋設物(木杭・無筋管等)であることにより、磁気探査では探査が不可能な場合もありますが、磁気探査以外の探査方法により探査対象の位置を捉えられる可能性もありますので、ぜひ当社にご相談させてください。
● 土留め材(H型鋼・鋼矢板)
● 埋設管(スチール・RC)
● HV杭(H型鋼・鋼管・PC・RC)
● アースアンカー等
地下埋設物調査は不発弾等の危険物を対象とした鉛直磁気探査を応用したもので、作業の流れは鉛直磁気探査と同様です。対象とする構造物近傍でボーリングマシンにより磁気探査用に開発した非磁性のステンレスロッドを使って削孔(φ46mm)します。削孔後、ロッド内に 両コイル型磁気傾度計を入れ、センサ昇降機で孔口から孔底まで一定速度で移動して対象とする埋設管や杭などの磁気異常を測定し、μシステムによりデータを収録します。収録したデータは各種フィルタによる波形処理等を施し、対象とする構造物の深度(根入れ)や平面的な位置を精度よく求めます。
ngp - μシステム
残置基礎杭の測定記録
解析した水道管(φ2100mm)の測定記録
地球は巨大な磁石で、北極は磁石でいえばS極に、南極はN極になっています。両極を併せて磁極と呼びます。地球磁場の様子は左図のような磁力線で表されます。磁力線は全てN極を出てS極に至る曲線になっています。曲線上の矢印は磁場の方向を示し、その線上に磁針を置くとその方向は磁場の向きに一致します。
地磁気は、本来ベクトル量ですから大きさと方向を持ちます。従って、様々な組み合わせでこれを表しますが、磁気探査で良く用いられる組み合わせとして、「全磁力」「伏角」および「偏角」があります。これらの量は、地球上の測定する場所で異なった値を示します。 日本の東京付近の緯度では、磁力線は南から北に向かって、地表面に対して約49°の伏角で入っておりその強さはおおよそ46,000nT(ナノテスラ)程度です。
鋼管やスチールセグメントで覆われた埋設管は、地磁気の誘導により磁化しており、その周辺に作る磁気異常のパターンは,埋設管の中心に小さな磁石を磁化の方向に合わせて置き、その磁石が管軸方向に一様に連続している状況に一致すると仮定します。
磁化の方向は、埋設管の埋設方位によって異なります。南北方向に埋設されている場合は上から下に鉛直方向(90°)に磁化し,東西方向に埋設されている場合は南から北に伏角約49°方向に磁化しています。それ以外の埋設方位では,49°~90°の中間の方向に磁化しています。
埋設管が南北方向に埋設されている場合
埋設管が東西方向に埋設されている場合
構造物の支持杭または土留め用のH型鋼・鋼矢板等も地中に打設存置された場合、地磁気の誘導により磁化しています。その周辺に作る磁気波形のパターンは地中に長い棒磁石を置いた時と同様で、基本的には支持杭・H型鋼・鋼矢板の上端部、下端部に強く帯磁し、下端側がN極、上端側がS極に帯磁します(他の磁気的影響により帯磁が逆になる場合もあります)。